青春時代(その1)

また少年時代に戻るかも知れませんが、この前の初恋の続きがあります。というかボクは初恋の女性のことを一時期忘れて別の女性に夢中になった半年間がありました。
みんなが受験一色になった高校3年生の時です。同じクラスにおとなしくて目立たないのですが、頭のよい、何時も潤んだ目をした女の子がいました。受験が近づくといろいろなプレッシャーがかかりました。この時期ボクは長いスランプからやっと抜け出しかけた頃でした。ボクは高校2年の時に生涯忘れられない大きな出来事があり、それ以来勉強が出来ない日々が続いていました。その出来事については自分自身は忘れることはないと思うのですが、軽い認知症になれば忘れてしますかも知れませんので、何時か書くつもりです。
ボクが横道にそれてしまったのは、そのような特殊な環境の中だったからだと思っています。でもその時はそれなりに真剣でした。悪い癖で試験が近づいたりすると、無性に小説が読みたくなったりするのですね。これは今も変わりません。何か発表が近づくと映画を見たり本を読んだりしたくなります。それと同じような現象だったのだと思います。
ボクは受験から逃げたかったのです。それで、会えない人よりも毎日会える人に恋をしてしまったのです。「去る者は日々に疎し」といいますから、まさにそれですね。
2学期が始まる頃から意識していました。ですから廊下ですれ違う時には大勢の中で彼女を見つけて、自然と見つめていました。そして時には目が合う時がありました。でも、彼女はすぐに目をそらしていました。受験勉強の中でも思い出すのは初恋の人Nさんではなく、同級生のSさんでした。多分この頃は1時間勉強したら10分ぐらいSさんのことを考えていました。
そして3学期は短くて、すぐに私立大学の受験が始まりました。ボクは私立大学は受験しませんでした。国立大学1本だけでした。彼女も学部は違いましたが同じ大学を受けました。そして彼女は見事合格し、ボクは不合格でした。
ボクはSさんのことが忘れられず、翌年の受験までに結論を出したくて彼女に初めて手紙を書きました。今のように携帯があるわけでもなく、通信手段は手紙しかなかったのです。何日もかけてレポート用紙2枚のラブレターを書き上げました。そして彼女の所に送りました。
何日も待ちましたが返事は来ませんでした。(恥ずかしいから、返して欲しいな・・)
一月ほど待って来なかったので、ボクは心の中で決着がつき、いつの間にかSさんのことは考えなくなり、勉強に集中できるようになりました。いったい何だったんだろう。苦しかった2ヶ月ほどの期間。そして翌年大学に入るのですが、その時は頭の中に初恋の人がいて、今度はこの人との決着をつけなければならないと考えていました。
初恋の人は現役で大阪教育大学に合格していました。そしてある日友達に元気づけられ、初恋の人Nさんの家を訪ねました。国鉄(今のJR)兵庫駅の近くでした。夕方の6時頃訪ねてゆきました。玄関でブザーを押すと、彼女のお母さんが出てこられました。「ボクは中学時代の友達です。Nさんにお会いしたと思ってきました。」といいました。すると彼女の母親は「娘は何時も帰りは7時過ぎになるんですよ。クラブ活動なんかで遅くなるようです。でも、今日は早いと言っていましたのでもう帰る頃かも知れません。なんなら一緒に駅まで行きましょうか?」と言って出てきてくださいました。Nさんとは違ってお母さんはかなり太っていました。でも、ボクをあやしい奴とも思わないで、親しげに話しかけてくださいました。そして兵庫駅まで行きそこでお母さんが一方的にお話しして下さいました。そして時間は7時をまわり7時半をまわりましたが、彼女は姿を見せてくれませんでした。8時になった時、ボクはまた来ますと言ってお母さんとは駅でお別れしました。
翌日の夕方電話がありました。確か日曜日だったと思います。電話は紛れもなく初恋の人Nさんでした。
「○○君?昨日はごめんなさい。今駅前の喫茶店の××にいます。来れますか?」という電話でした。「ボクのこと覚えていますか?」と聞きました。「もちろん覚えているわ」と言ってくれました。ボクは慌てて出かけてゆきました。歩いて10分ぐらいです。薄暗い喫茶店の中に彼女は確かにいました。昔とほとんど変わらない姿のまま・・・。ボクは心臓がが大きく激しく打っているのがわかりました。おそらく顔も紅潮していたと思いますが、薄暗さとタバコの煙で見えにくかったと思います。そして1時間ほど話すうちにボク達はすっかり打ち解けて喫茶店を出て、彼女を家まで送る事にしました。そして肩を並べて歩きながら話したのですが、ボクは彼女の言葉に打ちのめされました。ボクにある宗教に入らないかと誘うのです。それから彼女の口から出てくる言葉は信じられないものばかりでした。
「お母さんもその宗教を信じているの?」と聞くと「母親はダメ」と言いました。ボクはこれで熱病から覚めたようになりました。
ボクの初恋はこの日に終わりました。会えたのに終わりました。今ならまた違ったかも知れないですが・・・。