第34回関西呼吸器感染懇話会

この会はかなり広い範囲の方々が来られていて昨日の会とは全く異なりますが、毎回なるべく出席するようにしています。
今日の演題は2つで最初は一般演題で続いて特別講演がありました。

【一般演題】『症例からニューキノロンの使い分けを考える』で、講師は近畿大学の感染対策室の教授である吉田耕一郎先生でした。内容はニューキノロンの分類からはじまり、その上手な使い方をお話しして下さいました。特に第3世代後期のジェニナック、アベロックス、グレースビットについては詳しい説明がありました。NHCAPでは誤嚥が最多でその中でも嫌気性菌が多いこと。嫌気性菌が効くのは第3世代後期の3剤がよいとのことです。誤嚥が疑われる場合ははじめから上記3剤を使ってもよいのではないかということです。他にも有益なお話しがありましたが、メモをとれていません。質問の中に結核に対してはLVFXなどは効いてしまって、困ることがあるのでオゼックスがいいのではないかという質問がありましたが、結核が疑われるような、画像、検査所見がないならオゼックスはやや弱いので他のニューキノロンでよいとのことでした。

【特別講演】『span>耐性グラム陰性桿菌感染症の現状と対策』で、講師は東京医科大学微生物学分野 主任教授 松本哲哉先生です。

# BLNAL ペニシリンは無効。ABPC/ABTは70%有効。カルバペネムはよく効く。レスピラトリーキノロンは全て有効。

# ESBL産生菌(ESBLはβラクタマーゼのバージョンアップしたもの)
カルバペネムは有効。他のセフェムは無効。中国では8-9割がESBL産生菌。日本では3-10%。
ESBL産生菌は増加傾向。キノロン耐性E.coliは場所によっては3割以上となっている。

# P.aerginosa DRPM>MEPM キノロンはSTFXが最も有効。
MDRPに対してはコリスチン

# MDRA(多剤耐性アシネトバクター)チゲサイクリン。(嘔気・嘔吐などきつい)

# CRE(カルバペネム耐性腸内細菌)・・カルバペネマーゼ産生腸内細菌は特に CPE
日本はメタロ−βラクタマーゼ産生菌が多い。
アメリカではKPCが猛威を振るっている。

次のネットの記事が参考になると思います。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

ほとんど全ての抗菌薬が効かない多剤耐性菌「メタロβ(ベータ)ラクタマーゼ(MBL)産生菌」の院内感染が、国立病院機構大阪医療センター大阪市中央区)で起きていたことがわかった。過去3年間に入院した約110人の患者が保菌・感染していた。現在は10人程度でいずれも無症状という。同センターが国立感染症研究所(東京都)や大阪市保健所に調査を依頼し、詳しく調べている。

 同センターや保健所によると、年明け以降、複数の患者からMBL産生菌を検出。過去の入院患者もさかのぼって調べたところ、複数の診療科で2011年度から年間30〜40人、計約110人が保菌・感染していたという。

 同センターは2月中旬に保健所に「複数の患者から耐性菌が検出された」と届け出た。MBL産生菌は免疫が弱った人が感染すると肺炎などになることがある。入院中に死亡した患者もいたが、いずれも持病があり、因果関係は調査中。同センターは感染拡大を防ぐため、一部病棟で新規の入院患者受け入れを停止したり、病院職員に手指の消毒徹底を指示したりしている。

 保健所によると、国立感染症研究所と共同で同センターに立ち入り調査し、MBL産生菌の種類が肺炎桿菌(かんきん)など4種類以上あることを確かめた。事情を知る感染症の専門家は「新型多剤耐性菌(CRE)による院内感染だ」と説明する。CREの大規模院内感染は国内では報告例がないという。

 CREは世界各地で広がっており、日本でも最近報告された。厚生労働省では国への報告対象にすることを検討している。(野中良祐、佐藤建仁

                    • -

米国CDCが警告を発したカルバペネム耐性腸内細菌(CRE)に関するQ&A

http://www.nih.go.jp/niid/ja/drug-resistance-bacteria-m/3306-carbapenem-qa.html

公開日2013年3月8日(金曜日)17:01

<一般向け>

Q1:CREとは何の略ですか?

A1:CREとは、「Carbapenem-Resistant Enterobacteriaceae」の略で、最後の切り札的抗菌薬であるイミペネムやメロペネムなどのカルバペネム系抗菌薬に対し耐性を獲得した、肺炎桿菌や大腸菌、さらにその仲間の腸内細菌科に属する細菌のことです。

Q2:CREはなぜ問題なのですか?

A2:CREは、カルバペネム系抗菌薬を含む多くの広域β-ラクタム系薬に対し耐性を獲得しているのみならず、他の系統の、例えばフルオロキノロン系やアミノグリコシド系の薬剤にも多剤耐性を獲得していることが多く、感染症を引き起こすと治療が難しくなるからです。また、CREの菌種はもともと腸内に棲息しやすい菌種であるため、ヒトの腸内に長く定着する性質を持ちます。

Q3:CREはどんな病気を引き起こすのですか?

A3:CREは、肺炎桿菌や大腸菌が多く、その他、その仲間の細菌です。したがって、肺炎や尿路感染症などの原因となる場合が多いです。また、手術後の患者さんでは、創部の感染症や腹膜炎、膿瘍などの原因になることもあります。さらに、血液中に侵入し敗血症などを引き起すと、重篤化することが多く、米国では半数が死亡したと言われ、警戒されています。

Q4:CREについて、日常的に注意することはありますか?

A4:健康な日常生活を送っている方々では、CREを過度に心配する必要はありません。海外で医療行為を受けたり、海外旅行から帰った後、体調不良等で医療機関を受診した場合は、海外に出かけていたことを、医師に告げて頂く必要はあります。海外では、CRE以外にもそれぞれの地域で流行や土着しているいろいろな病原体に感染する可能性があるからです。

Q5:万一、家族にCREが感染していると言われた場合には、どうしたら良いのですか?

A5:健康な日常生活を送っているご家族の方々には、CREはほぼ無害なので、過度な心配はいりません。しかし、お医者さんで抗生物質等を処方してもらい服用している方の場合には、CREが感染して増えることもあるので、その旨、医師に相談して下さい。また、CREが検出される患者さんの喀痰や便などの処置や処理の際には、手袋を用い、終了後には、石けんで手指を洗えば問題ありません。

<医療関係者向け>

Q1:CREには、どのような菌種が含まれるのですか?

A1:CREには、菌種としては、肺炎桿菌や大腸菌が主流を占めていますが、その他、肺炎桿菌の仲間であるKlebsiella oxytoca、点滴の汚染で問題となることがあるSerratia属菌、Enterobacter属菌、さらにCitrobacter属菌などがあります。また、現時点では稀ですが途上国等では、Salmonella属菌やShigella属菌のカルバペネム耐性株も検出されている事例もあります。

Q2:CREが産生するカルバペネマーゼには、どのような種類があるのですか?

A2:これまでに、3つのグループが知られています。日本も含め世界中に広がっているのは、IMP型やVIM型、NDM型などのメタロ-β-ラクタマーゼ(MBL)のグループです。米国や欧州で広がっているのは、KPC型と呼ばれるものです。一方、欧州で急激に広がっているものとしては、OXA-48などと呼ばれる新型カルバペネマーゼを産生するCREもあります。

Q3:なぜ、CDCはCREに対する警告を発したのですか?

A3:CDCの警告文書には、米国では、この10年間に、カルバペネム耐性のKlebsiellaが7倍、腸内細菌科の菌種全般では、4倍に増えていると記載されています。引用されているMMWRによると、Klebsiellaが1.6%から10.4%へ、腸内細菌科の菌種全般では1.2%から4.2%と、急増しています。また、CREはグラム陰性菌のため、エンドトキシンを産生し、血液中に侵入して敗血症等を起こした場合、エンドトキシンショックや多臓器不全を誘発し、患者さんの症状の重篤化、予後の悪化に繋がり、半数が死亡すると警戒されています。米国では、これまで、KPC型カルバペネマーゼ産生菌が多い傾向がみられましたが、最近、コロラド州の病院で、NDM-1を産生するCREのアウトブレイクが発生し、また、欧州で広がっているOXA-48を産生する新型のCREも最近新たに検出されているため、CREに対する注意喚起を行ったものと思われます。

Q4:米国以外ではCREの状況はどのようですか?

A4:欧州では、VIM型やNDM型のMBL産生株とともに、KPC型、さらに、OXA-48の産生株も広がっており、各地でアウトブレイクも報告されるなど、米国よりある意味で深刻な状況に陥っています。また、インドやトルコ、ギリシャさらにその近隣のアジアや中東諸国などでも、CREが広がっており、警戒されています。また、イスラエルや中国の上海、香港、その近くの浙江省江蘇省などでKPC型カルバペネマーゼ産生肺炎桿菌等が増えています。

Q5:CREを早期に検出するにはどうしたら良いのですか?

A5:細菌検査室で日常的に実施されている薬剤感受性試験では、CREに対しては、イミペネムなどのカルバペネムのMICが必ずしも「R」とならない場合もあり、カルバペネム耐性を目安にしていると、見落とす危険性があります。多くの広域β-ラクタム系薬、特にセファロスポリン系薬に耐性を示し、ESBLの阻害剤であるクラブラン酸やSMAなどのメタロ-β-ラクタマーゼ阻害薬の存在で、耐性度が変化しない株については、カルバペネムの分解活性を確認するため、変法ホッジテストを実施すると検出できる場合があります。この場合、メロペネムを含むdiskを用いると感度が高くなると言われています。また、KPC型カルバペネマーゼ産生株では、3-アミノフェニルボロン酸により阻害活性が観察されますが、AmpC産生株との鑑別が必要になります。CREが疑われる株に対しては、PCRによる遺伝子検出が最も確実です。

Q6:CREを保菌したり感染症を発症している患者さんに対してはどうしたら良いですか?

A6:院内伝播を食い止める為の対策は、MRSA多剤耐性緑膿菌などに対する感染制御の手法と基本的には同じです。しかし、MRSA多剤耐性緑膿菌では、便の培養検査はあまりしませんが、CREは肺炎桿菌や大腸菌等の腸内に棲息しやすい菌種のため、喀痰や膿、尿などの検査とともに、必要に応じて、便の検査、さらに陰部の拭き取り検査などを実施することで、保菌者を早期に発見、特定することができるようです。CREが検出されたら、他の多剤耐性菌(MDRO)と同様に標準予防策とともに接触感染予防策の徹底など、院内伝播の防止策を強化することが必要です。

 なお、CREによる感染症を発症している患者さんの治療法としては、定まった指針やガイドラインはありません。患者さんの病態と薬剤感受性試験の結果などを考慮し、臨機応変な対応をして頂くことになります。しかし、CREによる感染症を発症していない保菌患者さんに、除菌のため抗菌薬を投与することは推奨されていません。無用な抗菌薬投与は、逆にCREを増やしてしまう危険性があります。

Q7:CREが検出されたら、保健所に届け出をするのですか?

A7:感染症法では、現時点では届け出は求められていません。しかし、一定期間内に複数の患者さんからCREが検出され、CREによる院内感染の発生が疑われるものの、対策の効果が見られない場合などには、医政局指導課の課長通知(平成23年6月17日:医政指発0617第1号)に従い、保健所に届け出て頂く必要があります。

 もし、CREが疑われる株が分離された場合には、適正な感染制御を実施するためにも、CREか否か判定する必要があり、近隣の連携病院、特に大学附属病院などの検査室や細菌学教室に依頼して詳しい解析をしてもらうことが必要でしょう。また、大学病院等で対応が難しい場合には、各自治体や、国立感染症研究所 細菌第二部(taiseikin@nih.go.jp)に相談して下さい。

参考資料(平成23年6月17日:医政指発0617第1号抜粋)

医療機関内での院内感染対策を講じた後、同一医療機関内で同一菌種による感染症の発病症例(上記の4菌種は保菌者を含む)が多数にのぼる場合(目安として10名以上となった場合)または当該院内感染事案との因果関係が否定できない死亡者が確認された場合においては、管轄する保健所に速やかに報告すること。また、このような場合に至らない時点においても、医療機関の判断の下、必要に応じて保健所に連絡・相談することが望ましいこと。

{注:「上記の4菌種」とは、バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌(VRSA)、多剤耐性緑膿菌(MDRP)、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)、多剤耐性アシネトバクター・バウマニ(Acinetobacter baumannii)}

国内外の薬剤耐性菌の最新情報については、以下のHPより、随時提供されています。

http://www.nih-janis.jp

http://yakutai.dept.med.gunma-u.ac.jp/society/index.html

文責:荒川宜親 (名古屋大学大学院医学系研究科 分子病原細菌学/耐性菌制御学)

柴山恵吾 (国立感染症研究所 細菌第二部) 

                    • -

カルバペネム耐性腸内細菌に関する米国CDCの発表と、日本国内の状況について

http://www.nih.go.jp/niid/ja/drug-resistance-bacteria-m/3305-carbapenem.html

米疾病対策予防センター(CDC)は3月5日、米国で抗菌薬の切り札とされるカルバペネム抗生物質に耐性を持つ腸内細菌科の細菌(Carbapenem-Resistant Enterobacteriaceae、CRE)による感染症が増えており、早急な対応が必要であると発表しました。

http://www.cdc.gov/media/releases/2013/p0305_deadly_bacteria.html

http://www.cdc.gov/vitalsigns/HAI/CRE/

http://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/mm6209a3.htm?s_cid=mm6209a3_w

 発表によると、過去10年間でカルバペネム耐性の腸内細菌科の細菌が1.2%から4.2%に、特にKlebsiella pneumoniaeに限ると1.6%から10.4%へ増加しました。また2012年上半期で 全米の病院の4%、長期急性期病院の18%でカルバペネム耐性腸内細菌科の細菌による感染症が発生しました。

 日本国内においては、厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業がカルバペネムやその他の耐性菌の動向を把握し、以下のサイトで情報を公開しています。

http://www.nih-janis.jp

 2011年は、大腸菌のイミペネム耐性は0.1%、K. pneumoniaeでは0.2%でした。

 米国では、カルバペネム耐性菌はKPC型カルバペネマーゼを産生する菌が中心ですが、日本においてはIMP型カルバペネマーゼを産生する菌が多く、KPC型は現在のところ稀です。

http://www.nih.go.jp/niid/ja/drug-resistance-bacteria-m/drug-resistance-bacteria-iasrd/3096-kj3952.html

 日本においてカルバペネム耐性の腸内細菌科の菌は少なくとも米国ほど拡散していませんが、このような耐性菌は治療に困難を来すことから、医療機関においては引き続き注意が必要です。腸内細菌科に属する菌種でカルバペネム耐性を示す菌が分離された場合は、近隣の連携病院、大学附属病院、自治体などにご相談いただくか、国立感染症研究所細菌第二部(taiseikin@nih.go.jp)に解析を依頼することが出来ます。

文責: 柴山恵吾 (国立感染症研究所 細菌第二部)