少年時代(その5)

恥ずかしかった思い出です。
小学生の2年生ぐらいだったと思います。近所に1件だけお金持ちのお家がありそこにはボクと同学年の男の子がいました。タクシー会社の社長さんのお宅でした。
その子Nちゃんだけはどこか違っていました。着ているものも言葉使いもボク達とは違っていました。でも、彼はボク達のグループのボスにはなりませんでした。ボスはボクより一学年上の喧嘩の強い朝青龍っぽいSちゃんでした。ある日Nちゃんがボク達が戦争ごっこをして遊んでいる中にやって来て、「みんなのお父さんは戦争にいったのか?」と聞くのです。ほとんどが「行ったよ」と答えていました。ボクも父親が戦争で中国大陸に行っていたというのを聞いていたのでボクも「行ったよ」と答えました。すると、Nちゃんは「ボクのお父ちゃんは少尉で中国人を48人斬り殺したんや」といいました。みんなしーんとなりました。誰もそれ以上は答えてなかったのです。ボクもそんなことを話す父親を知りませんから、その晩父親に「ねえ、戦争に行った時中国人を何人殺したの?」と尋ねました。すると父親は「一人も殺していないし、銃剣も一度も使ったことはないよ。しかし銃剣は部隊で一番うまかったのだよ」と言っていました。ボクはそんなことは聞きたくなかったのです。48人以上殺したと聞きたかったのです。
子供の頃ってなんにもわかっていません。それからしばらくしてNちゃんに会った時、ボクは顔をあわさないようにしていましたが、向こうからやって来て「お父さんは何人斬ったといっていた?」と聞かれました。ボクは顔が真っ赤になっていたかも知れないです。「だれも・・・・」と答えていました。そしてそれからしばらく意気地なしで弱虫の父親がイヤになっていました。
でも、同じ部隊にいた叔父から聞く父の話は全く違いました。ある時父親達の部隊が大勢の八路軍に囲まれた時、父親が一人身体に手榴弾をまいて突撃する準備をしていたそうです。しかし幸いなことに援軍が来て助かったのだと言います。「お前の親父はたいした奴だよ」と・・・。「だから自分の妹をもらってもらったのだと・・・」
ボクはこれで少しは父親を見直しました。そして高校生になる頃には父親がだれ一人殺さなかったこと、銃剣を一度も使わなかったことを誇りに思いました。
でも、恥ずかしい思いをした最初の時かも知れないです。